袴田事件の再審を認めた高裁決定は納得が行かない。新聞報道では、高裁は警察による証拠品捏造の疑いがあると判断したとのことである。しかし、捜査機関が組織的に証拠品を捏造することはあり得ない。
現に大阪地検では捏造したではないかとの反論が出そうだが、あれは一人の検事が証拠を捏造し、上司がそれを糊塗しようとした事件であり、事後処理は確かに複数の検事が関与したが、捏造そのものは単独犯であるし、捏造した証拠物も裁判に利用してはいない。
ところが、袴田事件では、証拠物は、一年後に味噌タンクから発見された血液付着の衣服である。その衣服に袴田と同じ型の血液が付着していたということが重要な証拠とされたのであるが、もしこれが捏造であるならば、警察は、衣服、血液を準備し、それを味噌タンクに隠し、発見した様子を演出し、鑑定書を作成し、少なくとも十人以上の捜査官を関与させなければならない。そして、その十人以上の警察官は、そのような重大犯罪を行ったことをその後何十年も隠し通したこととなる。
もし、高裁の裁判官がそれがあり得ると判断するのならば、それは警察に対する絶対的不信ということになる。そのような考えを持っているならば、すべての刑事裁判において証拠物の捏造を疑うことを強いられ、とても職務を遂行することは出来なくなるであろう。
袴田事件の真相については、親族間の軋轢やその他の複雑な背景があったようである。それならば、裁判官は、警察による証拠品捏造などと言わずに、証拠価値に疑問があるとの指摘にとどめるべきであった。
なお、ついでに言えば、検事による捏造ということは全く無い。私の30年間の検事生活を通じて、証拠物を捏造してまで有罪を求める度胸がある検事は一人もいなかったことだけは断言出来る。